てんかん発作の「前兆」

てんかん発作の症状はいろいろあって、人によって違います。その中に「前兆」と呼ばれるものがあります。これも色々症状はありますが、こけしの場合、一番よくあるのは単純に「嫌な感じ」。みぞおちの辺りからゾワゾワッと上がってきます。「上腹部上行性感覚」といって、側頭葉てんかんに多いそうです。他に幻聴不自然な記憶を感じることもあります。

「前兆」とは「何かが起ころうとしている前に現れるもの」で、言葉通りだと、「てんかん発作が起こる前に感じるもの」ということになります。

「え、じゃ発作じゃないの?!」と思いますよね。実際、「発作はまだ起きていない」ように感じます。「前兆」と「発作」は大分感覚が違います

こけしの場合、発作中の感覚をひとことで表すと「異次元の世界に囚われた」。…中二病っぽいですが、本当に普段と別世界にいるように感じるのです。
「気分がものすごく悪くなる」けど、それは車酔いや二日酔いなどとは違う、発作のときだけ感じる気持ち悪さ。周りはいつもと同じ光景が見えていても、違う世界に引きずりこまれて「逃げられない」「耐えられない」感覚。それを発作が治まるまでがまんするしかないのです。何度経験しても「二度と味わいたくない」と思います。

で、「前兆」はどうかというと、「異次元に引きずりこまれそう」「異次元の気配がする」という感じ。
「嫌な感じ」はしても、体や意識はいつも通りに感じるので、「発作」より全然余裕があります。

「前兆」と「発作」の違いは、発作の起きている脳の範囲の違いだそうです。
てんかん発作は脳全体が一気に発作を起こす「全般発作」と、脳の一部分だけで発作が起こる「部分発作」がありますが、「前兆」は「部分発作」のさらに入り口の辺り、というわけです。
脳のほんの少しの部分しか異常が起きていないから、感じる症状もすごく軽いのでしょう。

「前兆」は、入り口でそのまま引き返して治まる場合もあれば、部分発作、さらには全般発作まで進んでしまう場合もあります。
こけしの場合だと、「前兆」で嫌な感じがして、そのまま気分がもっと悪くなり体の一部がけいれんするなどの「部分発作」が起こり、さらに意識を失って全身けいれんを起こす「全般発作」になる、といった感じです。こけしはめったに意識を失うことはないですが、実際こういう流れの発作はありました。

11歳で最初の発作を起こしたときも、いきなり倒れたわけではなく「なんか気持ち悪いな…」とソファーに横になって、そのまま意識を失い全身けいれんを起こしました。今思えばあの「気分の悪さ」は「前兆」だったのでしょう。

でもこけしは長年「前兆」は「発作」ではないと思っていました。というか、「前兆」を知らなかったわけです。「発作が起きそうな嫌な感じ」で治まった場合は「セーフ」と思って、「発作」にカウントしていませんでした。
なので、30歳を過ぎてから、診察中にてんかん専門医に「前兆も小さい発作なんだけどね」とサラッと言われた時はショックでした。「自分で思っていたよりたくさん発作が起きていたんだ…!」と。

それに「前兆」はさらに強い「発作」が起きやすくなっているサインでもあります。「大したことないから」と思って「前兆」を気にしないまま、強い発作につながってしまったことも少なくなかったと思います。

「前兆」が何か分かってから、軽くても「前兆」が起きたときは、体調を確認、記録して、飲酒や洗髪など発作が起きやすい行動は避ける、発作が起きたときのためにヘルプマークを準備するなどするようになりました。
治療のための情報が増え、発作の予防や適切な対応にもつながったと思います。

こけしは「てんかん」についてよく知らないまま大人になって、「もっと早く知っていれば…」と思うことが何度もありました。「前兆」もそのひとつです。
「前兆」に気付いていない人、感じても気にしていない人、こけしの他にもいるかもしれません。
医師には、「前兆」の説明や、くわしく問診するなどして、患者が「前兆」を認識できるようにしてほしいと思います。