毎日救急車の音はどこかで聞こえています。でも乗ったことはない、あっても一度か二度くらい、という人が多いでしょう。
こけしはと言いますと…てんかん発作で少なくても十数回は乗っています。
といっても、発作の回数はその何十倍も起きています。てんかんは気分が悪くなるなどの小発作が最も多いと言われ、自然に回復するので救急車の必要はない場合がほとんどです。
救急搬送されたのは意識を失って倒れる、幻覚で異常な行動を取るなどしたときで、運ばれている間の記憶はほとんどありません。
ただ一度、はっきり意識のある状態で救急車に乗ったことがあります。それは数年前、ラファミド八王子で勤務中のこと…。
スタッフルームにいたとき、急に発作が起きました。周りには他の職員が数名いました。
ラファミド八王子の職員や利用者様はみんな、こけしがてんかんだと知っていましたが、その場にいたのは実際発作を見るのは初めての人ばかりだったと思います。
こけしは発作中、言葉が出なくなることが多いので、病名や症状などを書いたカード(現在はヘルプカードを利用)を障害者手帳にはさんで持ち歩いていましたが、運悪く、その時はバッグに入れたままでした。幸いすぐ近くにあったので、カードを取り出そうと動きました。
すると、周りの職員たちはそれをあわてて止めたのです。
「え?!」と思ったけど、言葉が出ないので、さえぎられても動こうとすると、抵抗する形になってしまいます。事を荒立てないために、周りにしたがうことにしました。こけしは隣の夜勤室に連れて行かれました。
こけしは小発作の場合、家だとほんの数分で元に戻ることが多いですが、職場だと家より症状が重く、時間も極端に長くなることがあります。緊張などのせいでしょうか…。
それでも今回は大したことはないと思っていましたが、周りの人たちは予想外にあわてていました。そんなにひどい状態に見えているのか…?発作中どう見えているのか、自分では分かりません…。
そんなわけで、意識ははっきりしているけど動くと心配されるし、言葉は出せないので、そのまま夜勤室で発作が治まるのを待つことにしました。普通に座っていて、大きな異常もないし、救急車は呼ばないだろう、と思っていました。
しかししばらくして、ピーポーピーポー…救急車の音が聞こえてきたのです…!
まさか、呼ばれちゃった…?どうしよう…。
正直必要のない救急車が来てしまったわけですが、言葉が出なくて状況を説明できないし、「ここで乗車拒否したら面倒なだけだな」と思い、誘導されるまま乗ることにしました。
でも、この判断をめちゃくちゃ後悔しました…。
知っての通り、救急車のサイレンはとても大きく、緊迫感ある音です。そして、他の車両に優先して走るだけに、揺れも激しく感じました。
本来、発作が起きたときは安静にするのが第一ですが、真逆のことをしてしまったのです。
病院について、一度は発作が治まり、体調も平気そうだったのですが、その後もう一度発作が起きてしまい、二度目の発作後は強い頭痛がして、動くのがとてもつらかったです。
こけしは発作が立て続けに起こることは滅多にないので、「絶対救急車に乗ったせいだ…」と思いました。多分、あのまま夜勤室で休んでいたら、発作は一度で治まり、そこまでひどい頭痛は残らなかったでしょう。
救急車を呼んだ職員は、発作を見て心配して、善意で判断したのでしょう。
でも結果、こけしの体調は救急車の揺れと音の衝撃で悪化してしまい、ついでに言うと、本来必要ない医療費もかかってしまいました。
職員はこけしがてんかんだと知っており、偏見なく接してくれていました。
でも、てんかん発作がどんなものか、どう対処したら良いかは知らなかったのです。
こけしの方も、カードは用意していても、肝心の時に取り出せなかったのでは意味がありません。そもそも、病名だけでなく、発作について詳しい情報を伝えておけば、あわてて自己判断することなく、対応してもらえたでしょう。
善意の行動も、無知や思い込みのために逆効果になること、そしてそれを防ぐために「知ること」「知ってもらうこと」が必要だと実感させられた経験でした。